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うるさーーーい!

僕と君の大切な話


美人なあまり近寄りがたいと評判の相沢さんと、普段は女子と口喧嘩ばかりしている東くん、接点などなさそうな2人が学校の中庭で仲睦まじく談笑をしている。カメラは2人を見下ろすように上へとあがっていき、校舎の窓から2人を覗く東くんのクラスメイトを映し出す。スキャンダルを目撃したように人々はざわつく。呪詛の念を唱える者、わざとらしく手を望遠鏡のようにして遠くの2人に好奇の視線を送る者もいる。

喧騒に包まれる校内。その中心にいるはずの2人にだけ、まだこの騒ぎは聞こえてこない。すぐにも友たちは彼らを捕まえ、ひやかしたり、怒りをぶつけたり、まだわけのわかっていない2人を巻き込んで次のドラマを始めることだろう。けれども何かが始まった、この瞬間に限り東と相沢には平和な時間が流れている。

校舎の3階・窓の中に広がるパニックと、少しだけ離れた場所に流れる穏やかな時間。ひゅうっと風が、その間を吹き抜けていく。

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この「僕と君の大切な話」は、女性の考えは理解できないと思っている朴念仁の東くんと、その東くんに片思いをしている女の子・相沢さんの物語。恋愛ものなのだけど、一般的なラブコメと一線を画すのは、最初の時点でヒロインが男の子にすでに告白をしてしまっているところ。恋人同士にはなれなかったけれど、告白をきっかけに話をするようになった2人が「女はこうだ」「男だってこうじゃない」と、男女の相容れない部分や他愛のないことを語り合い、少しずつ互いのことを理解していく会話劇になっている。

1巻の時点では2人の仲があまり進展せず、てっきり恋愛要素はオマケで“男女あるある”を披露する少女マンガ版「絶望先生」なのかと思っていた。嫌いじゃないけど第一印象が小粒で、ストーリーマンガのように先の展開が気になる推進力が得られず、ネタの消費に終始するようなら買い続けるかは悩みどころだった。なのに第2巻を手に取ったのはなぜかというと、1巻の終わり方が世界観の広がりを感じさせたから。

駅のベンチでしか出会うことのなかった2人が、ふとしたことから学校でも話をするきっかけを掴むところで1巻は終わる。この移動は場所だけでなく、もちろん2人の距離が縮まったことも意味する。ここで、このマンガはもしかしてちゃんと恋愛を描く気があるのかもしれないと期待を持ったのが理由の1つ。

もう1つは校内で2人が会話をしたことで、学校中の人達が東くんと相沢さんの関係に気がつくシーンが挿入されたこと。学園ドラマの始まりを感じたし、なにより中庭で話をしている2人を校舎の窓から見下ろす描写が抜群によかったのだ……と、ここまで書いて1巻を見返したら、頭の中と実際の描かれ方がぜんぜん違った。「このシーンいいな」と思うあまり、より自分の好きな風に頭の中で想像を膨らましすぎていた。日記冒頭の描写が、僕の頭の中で再生されていた1巻ラストの景色だ。

ちなみに2巻では大きく話が動き、1巻で見せた予感を裏切らない展開になっていました。3巻への引きも続きが読みたくなる感じで、単行本の区切りを意識した編集は完璧。これは担当・しーげるさん(https://twitter.com/henshu_shigel)の手腕か。