おやつキングと駅スタンプノートとオランダ人とポケモン化粧品とマザーファッカー
おやつキング(http://oyatsuking.jp/)のクッキー。思わせぶりな耳をひっぱると、予想したよりたいしたことないことが起こる。
駅に置いてあるスタンプを捺す専用のノート。いつでもどこにでも持ち歩き、スタンプを見つけたら駆け寄る。鶯谷のスタンプは、二階堂和美 with Gentle Forest Jazz Band(https://www.youtube.com/watch?v=5SZd-d7BJjA)を見に行ったとき駅で見つけたけど、スタンプ帳を忘れたので手近にあった紙に捺した(ダメじゃん)。
ミッドタウンのサントリー美術館で買った、オランダ人の描かれたお皿とシール。シールは、すごくいいと思ったのでキタムラメグミ(https://twitter.com/kitamenko)にあげたら、よくわかんないという反応だった。なんで?オランダ人だぞ!?
ポケモンのハンドクリーム。僕じゃなく妻が買ったのだけど、あまりにうらやましいので欲しがったら使っていいことになった。やったー!
幸せのキャパが小さいので、ちょっとした買い物でいっぱい幸せな気分になれる。いいものを買ったら、人に見せびらかして自慢したい。俺は選ぶ目があるぞと、えっへんする態度。みんなもっと、いいものを買ったら俺に自慢したらいいのにな。
売野機子「しあわせになりたい」
「クリスマスプレゼントなんていらない」「売野機子のハート・ビート」が連続刊行された売野機子さん。そういえば短編集って全部読んでいたっけ?と思い、書店でざっと見たところ1冊だけタイトルに覚えのない「しあわせになりたい」を見つけたので購入。
表題作「しあわせになりたい」の中で、星野さんという女の子は「楽しいことが毎日増えて しあわせになりそうでこわいの」と泣く。傷ついた心が立ち直るとき、元気になってしまったら、悲しいと思った気持ちを裏切るような気がする。傷つくほど大切にしていたことを忘れてしまうんじゃないかと、しあわせに怯えてしまう。
星野さんが好きだった男の子・朝生は、スランプ気味のミュージシャン。不幸せだったときは曲が書けたが、その曲が世間に認められ彼は傷つくことがなくなってしまう。「肉体が満足してるとマインドが欠けるんだ」と、彼もまたしあわせになってしまうことに抵抗をする。しあわせになりたくないわけじゃない。むしろ「しあわせになりたい」と、みんなが思っている。
関係ないけど、なくないけど。うちの妻が昔「人はやりたくないことはやっちゃいけない。気が狂うから」と言っていた。どうしてそんな話をされたのか、たぶん仕事がつらいとかそういうことを僕が言ったからだと思うのだけど。
「楽しいことが毎日増えて しあわせになりそうでこわいの」と泣く星野さんを見ながら僕は、じゃあこの娘はなにが「やりたくない」のだろう……とぼんやり考えた。僕もしあわせになりたい。
閉店したゲームショップ「テレビっこ」の思い出
煌々と光る筐体のモニターに、タントアールのデモプレイ画面。コインを投入せず丸椅子に座りながら、店員に話しかける11歳の僕。餓狼伝説3はさ、キャラごとに隠し技を出すコマンドがあるんだ。知らない?
店員はニヤっと笑うと「ナイショだぜ」と言って、矢印やP・Kなどの文字がずらっと書かれたFAXを僕に渡す。まだゲーム雑誌でも、どこにも公開されていない秘密の情報だ。なんでこんなもの持ってるのさ?
「ゲーム屋だからね」
答えになっていない。でも、これはスゴいぞ。僕は持った指先の摩擦で黒く汚れる感熱紙をジッと見つめ、ギース・ハワードの隠しコマンドを頭に叩き込む。めちゃくちゃ難しい。キックやパンチ、レバーの動きをイメージして頭に叩き込み、それから100円を筐体に入れる。……全然うまくできない。
そこにコインを入れて乱入してくる店員。選択したキャラクターは、同じギース・ハワード。僕がなれない手つきでレバーをガチャガチャしていると、相手はススっ指を動かして滑らかに隠しコマンドを入力し、見たことない色のレイジングストームを出してみせる。なんでできんだよ!超むずかしいよコレ!
店員は、さっき渡したFAX用紙をクシャっと握りしめ、ハハっと笑って言った。
「ゲーム屋だからねー」
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僕は幼稚園から中学校卒業までに4回引っ越しをし、千葉県、福島県、神奈川県を渡り歩いた。小学校の2年生から住み始めた横浜は、親が気に入ったのか同じ市内で2回の引っ越しをしている。僕も少年期を一番長く過ごした場所だけあり思い入れが強い。
僕の少年期を語る上で外せない、人格形成に大きく影響したスポットが横浜市あざみ野のゲームショップ・テレビっこだ。小学生の中学年ごろにオープンしたこの店はアーケードゲームの筐体を置いていて、当時まだゲームセンターに行ったことがなかった僕は駄菓子屋くらいでしか筐体のゲームをプレイしたことがなく、ここではじめて対戦格闘ゲームに触れた。ビックリすることに、外でゲームをやっていると見知らぬ人間が横に座り対戦を申し込んでくる。家で友人と「スト2」などはやっていたが、まったくの他人とゲームをしたことなどなかった僕は、乱入という制度にカルチャーショックを受けた。そして、その面白さに目覚めていった。
思えば、ここで自分とゲームの関係性が確定したのかもしれない。僕はゲームは好きだが下手だし、やり込んだりするほうでもない。どちらかというとプレイをすることよりもゲームを通じて人と仲良くなったり、人とゲームについて喋ったりしているほうが楽しい。テレビっこの筐体は対戦台ではあるが、お店の一角に設置されたものなのでゲームセンターのような緊張感はない。客層も、ゲーセンはヤンキーがいるから敬遠しているがゲームは大好きな中高生、店員と友達のオタクな大学生などが多く、子供の僕でも安心して居られる空間だった。むしろ小学生なのに大人に混じってゲームをしていることに妙な優越感を持ち、彼らの仲間に入りたくて、背伸びして会話に加わっていった。
店員のひとり千葉さんは、中古で売られてくるスーパーファミコンのソフトをマジコンでフロッピーディスクに片っ端からコピーするギークな大学生。
もうひとりの店員、佐野さんはバイク通勤する姿がカッコよかった。絵が上手くてゲーメストなんかにイラストを投稿していた気がする。
開店前にお店の手伝いをする約束で、こっそり中古ゲームをやらせてくれた女性店員。当時は女の人と話すのが恥ずかしいからあんましスキンシップをとれなかったけど、いま考えると僕は彼女のことが好きだったんじゃないかという気がしている。性的な意味で。
店員の人達と仲が良かった大学生のトシモリさんは、アニメ好きの大学生。僕が「スレイヤーズ」のOVAを買ったとき、大人なのに「うわーこいつ買ってるし、貸して!見して!」と言ってきたのを今でもよく覚えてる。
そのほかにも最後まで名前は知らなかったけど、店でゲームしているとよく乱入してきた高校生の男の子。あだ名が帰国子女だったけど、別に帰国子女ではなかったらしい。あるとき、財布を落としただか盗まれただかで泣きながら店にやってきて、僕は100円を貸してあげた。小学生の自分にとって100円は大金だったけど、あげるつもりで渡したし、結局そのあと返してもらった覚えはない。
いろんな人達と出会い、遊んでもらって、僕は1年間ぐらいテレビっこに居座り続けていた。そのおかげで学校のクラス会で寄り道を吊るしあげられ、放課後の過ごし方として不健全というレッテルを貼られ、店に行きづらくなったりもした。そして、それとはあまり関係ないけど僕はどんどん学校が嫌いになり、中学にあがると不登校児になる。不登校児になると、外出をしづらくなる。それで僕は、ほとんどテレビっこに足を運ばなくなってしまった。
中学を卒業して、僕は通信制の高校に入学した。学校には相変わらず通っていなかったけど、ゲームは好きでPSソフトの「アーマードコア」にハマっていた。そこで僕は、同じ「アーマードコア」をプレイしている店員がテレビっこにいることを知り、再びテレビっこに足を運ぶことになる。いまはヨシカワタケシの名前でDJをしている彼が、そのときの店員だ。
ヨシカワさんと仲良くなったことで、テレビっこの店員たちとも知り合うことになる。昔は小学生だったが、このときは高校生。もう場合によっては大人と対等に話ができる年齢だ。あんなに憧れていた、大人の側としてテレビっこに立つ自分に感動すらした。年末にはお店の忘年会に誘われ、そこで小学生のときに遊んでもらった店員のお兄さん・佐野さんとの再会も果たす。バイトを辞めてしまった時点でもう会えないと思っていた人に、大人になってから会うことがあるなんて!佐野さんは成人マンガの領域でプロになったらしく、雑誌でエロマンガを描いているようなことを言っていた。緊張して、ペンネームとかを聞くのを忘れたのが悲しい。ただ「大きくなったけど、すぐにわかったよ」と、僕のことを覚えていてくれたことが嬉しくて、なんだかヘラヘラ笑ってしまったが、今思えば、あのとき僕は佐野さんにお礼を言いたかったんじゃないかと思う。
やがて僕はゲームからクラブミュージックへと興味の対象が推移していき、テレビっこにあまり足を運ばなくなっていく。ほどなくして親の引っ越しであざみ野も離れることになり、高校を中退した僕はバイトをしたり、一人暮らしをしたり、ライターになったり、結婚をしたり、子供を作ったり、忙しい人生を送りテレビっこのことをほとんど思い出さなくなっていった。
ついさっき、ふと思い出してgoogleの検索窓に「テレビっこ あざみ野」と打ち込んで見た。そこではじめて、僕は2011年にテレビっこが閉店していたことを知る。
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煌々と光る筐体のモニター、セブンイレブンのからあげ棒をかじりながら丸椅子に腰掛ける僕。
小学生がうろつくには、ずいぶんと外は暗くなっている。
お財布の小銭も底をつき、もう店にいるだけでゲームも長い時間プレイしていない。
そろそろ、帰らなくてはいけない。
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小学生のころのことを考えると、思い浮かぶ景色がある。
もう誰も自分の知ってる人はいない。とっくに居場所なんてなかったはずなのに
心のどこかで僕はあの店を、ずっと自分の帰る場所みたいに思っていた気がする。
いま時刻はAM3:38。僕は夜中に起きていても誰にも叱られない。
ゲーム屋は、とっくに閉店している。
そうだな。そろそろ、帰らなくてはいけない。
せっかく生まれてきたのに君と同じ楽しみができない
アンテナをビンビンに張り巡らせて面白いことを察知し続けて、なにひとつ取りこぼすことなくキャッチしたい。自分が面白いと思わないことすらも興味がある。自分が面白くないと感じるのと同じぐらいに、人が面白いと感じていることは事実だ。そこにはロジックがあり「趣味じゃない」とか言って切り捨ててさえしまわなければ、道は続いている。ものには面白がりかたがあり、ルールを知らないと楽しめない遊びが多い。例えばTVのバラエティ番組は、芸能人のモノマネとか、ゴシップをネタにしたいじり芸とか、そういう内輪ネタが溢れている。学校でクラスメイト同士が先生の悪口を言ったり、誰と誰が付き合ってるとかを冷やかしているのと同じだ。そのクラスに属していないと通じない類の笑いである。他人からしたらクソ面白くない話だが、サークルの大きさやディレクトリが違うだけで、すべての笑いは同じ構造にある。理解することから笑いは始まる。趣味だとか、センスだとか、方向性が問題になるのは理解したあとであり、理解する前から否定するのは脳死である。食べ物の好き嫌いが多いと、人生を損しているような気分になるだろう。嫌いなものが少なく、なんでも美味しく食べられたらどんなに食事が楽しいだろう。
小説を読んで作者の訴えたいテーマを読み解きたい。
映画を見て一番美しいと思うシーンを一生覚えていたい。
音楽を聞いてメロディと歌詞のハーモニーを感じたい。
連載マンガを読んで伏線をきちんと見つけ今後の展開を予想したい。
アニメを見て作画や演出を語りたい。
カッコいい服を着て髪型を合わせたり上下のバランスを考えたい。
雑誌を見てエディトリアルデザインを美しいと思いたい。
スポーツ選手のプレイを見て感動したい。
旅行に出かけてもういちど来たいと思える景色を見たい。
ビールを飲んで産地や銘柄から味の違いを比べたい。
僕が面白いと思うことを、君にも面白いと思ってもらいたい。
次の自己紹介
家に帰ってくると妙に雰囲気が暗い。もう夕暮れ時なのに電気が点いていないし、なんていうか、誰もいないときより余計に響く居心地の悪い静けさが玄関から廊下にかけて充満していた。ごくり、とつばを飲み込んで私は「おかあさん?」と暗がりに問いかける。返事はない。一歩、二歩、普段だったら長さなんて気にしたこともない廊下を慎重に歩いて台所のドアを開ける。キッチンテーブルを囲むように、父と母、それに弟が座っているのが見えて私はホッとした。しかし、やはり様子がおかしい。妙にシリアスというか、みんな押し黙って下を向いているのだ。そして変だなと思った、弟は東京に就職して普段は実家にはいない。最初は、帰省を私が知らされていなかっただけだと思った。しかし、よく見るとそれは弟ではなかった。どうして私は"これ"を弟だなどと思ったのだろう。父、母とテーブルを囲んでいる人間といえば弟だと脳が決めつけてしまっていたのだ。これは、弟なんかじゃない!それどころか、これは、ああ!アアァァアァアアァァアアァァアァァァアァァzァァ………
それが俺です、こんにちは。
俺の話を聞くのはあいつだけ
俺の話を聞くのはあいつだけ、つまんねえかもしれねえが、助かる
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もう夜中だというのに、この公園では派手な騒音が鳴り響いている。あちらこちらから奇声とかするし、酒飲んで酔っ払ってるやつの上をスケートボードが飛び越えたりして、それ失敗したら死んじゃうやつです?っていうようなのも、みんな拍手して笑ってんの。俺はうずくまって「ありえねーし」を連呼。これはセンパイと付き合い始めてからの口癖だ。どちらかっていうと俺はすぐ「ありえねー」とかいうやつこそ「ありえねー」って感じだったのだが、この1ヶ月でスッカリ改心した。この状況「ありえねー」だろ。
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「ヒップホップ好きなんだ。君、進学クラス?」
はじめて声をかけてきたのはセンパイのほうからだった。俺はそのとき、地元でしか活動してないユニットのTシャツを学校に着てきていて、うちの進学クラスは真面目を絵に描いたような坊っちゃんばっかだから目についたのだろう。
「あ、でもニワカか」
「そのTシャツ着て、そのキャップかぶるやつはファンにいないよ。つーか、学校でキャップかぶんなし。制服、あんま崩すとダッセーよ」
ちょっと残念そうな顔して、センパイはそう言った。俺はわりと音楽にはうるさいほうで、このユニットはたしかに最近知ったばっかりだったが、プレスで発売されてないCD-Rなんかも通販で買って聴きこんでいる。ニワカ扱いにはむかついてしまった。あとから知ったことによると、Tシャツとキャップのラッパーは敵対関係(そんなの日本であんのか、まじかよ)で、ファン同士もいがみ合っていて、アイテムを着たやつを見つけてはリンチにしあったりしているらしい。でも、そんな事情知んねーし。ディスクユニオンでレコメンされてたから聞いただけだし。
「超カッコいいもん、どっちも好きでわりーかよ!」
なんつっちゃって。今でもやっぱりそう思うけど、それ以来Tシャツとキャップは一緒にかぶらなくなった。でも、なんでだろ。あのときのセンパイすっげー笑ってたな。
あのとき声をかけられてから、俺はセンパイに懐かれてしまった。授業をサボタージュして釣り堀に付き合わされたり、駄菓子屋の店番させられたり。学校帰りにはライブによく連れて行ってもらったが、モッシュで客が骨折するようなバンドとか、かと思えば宇宙の神秘を覗くような音響とか。センパイと見るものは、すべてが新鮮で面白かった。どこに行ってもセンパイには仲間がいて、一度盛り上がっちゃうと俺がいることなんか忘れたみたいになっちゃう。で、いっつも途中で俺のとこきて聞くんだ。
「どうだ、つまんねえだろ?」
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どっかで誰かが花火を始めたのだろう、いつのまにか辺りはモクモクと煙が充満している。ロケット花火の打ち合いをするような音が響き渡り、俺はセンパイにもらった缶チューハイを一口飲む。
「どうだ、つまんねえだろ?」
センパイはいつもの調子で言った。センパイといるとメチャクチャなことばっかで、面白いとかつまんないとか考える余裕がなくて、いっつも適当に笑ってごまかしてた。でも今日は、なんだか考えなくちゃいけない気がする。だけど爆竹の破裂音と煙がすごくて、ぜんぜん頭が働かない。
ここにいるみんな、本当は俺みたいに、なにが起きてるか一つもわかっていないのかもしれない。ずっと馬鹿笑いしてるのは、笑っているしかないからなのかもしれない。
「こういうのって、なんていうんだろ。つまんないよりは楽しいんだけど。さびしい、のかな」
俺がそう言うとセンパイは「なんだよソレ」なんて言って、そのあとはハハっと小さく笑った。俺はスケートとかしたことないから、滑るのとか超怖かったけど、センパイにやれやれって言われて一度だけ板に乗っかった。明らかに上級者向けっぽいランプの上に立たされて、背中をドンって押されて真っ逆さま。
俺、滑ってる、つーか転ぶし、うわ変な感じっ。
「転ぶな、そのまま飛べ!オーリーだよ!」
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つま先が離れると、板は空中でグルっと一回転してすっ飛んでいった。スピードに置いていかれた後輩は地面に打ち付けられて、そんで、なんかしんないけど、ずっと笑ってた。
真夜中の公園、爆竹の破裂音とすごい煙、だれかのラジカセから流れるストラグル・フォー・プライド。缶チューハイを一口飲み込んで、さっきの言葉を思い出す。ためしに自分でも言ってみる。
「こういうのって、なんていうんだろうな。つまんないよりは楽しいんだけど。さびしい、のかな」
ハハっと笑って、缶チューハイの残りを飲み干して俺は煙の中に入っていく。
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俺の話を聞くのはあいつだけ、つまんねえかもしれねえが、助かる。