ぴーちくぱーちく

うるさーーーい!

きょうのご馳走「肉蒸し」

僕の母親は料理が上手だった。というのも母の実家は旅館を営んでいた時期があり、その味をきちんと継承した料理を作ってくれたので、普段の食事から少し手の込んだものなんかが出てきがちだったのだ。結婚してから「あれが食べたいなー」なんて実家で食べていたものをいうと、その料理をそもそも妻が知らなかったりして、どうやら自分の家だけで作られていたオリジナルメニューであることが判明したりもする。そういうものを忘れたくなくて、最近は母親から作り方を教わり自分で作ってみることが多い。

旅館の料理なので日常的に作るには面倒くさいが、めでたい日にぴったりのメニューなんかも多かったりする。今日は妻の誕生日なので晩御飯に「肉蒸し」を作ろうと思う。せっかくだから、その作り方を紹介します。

<肉蒸し>
材料:豚ひき肉(300グラムくらい)、人参、きのこ、ゆで卵、生姜
調味料:醤油、みりん、酒、砂糖、塩



人参、きのこ、生姜をみじん切りにします。フードプロセッサーに突っ込むと楽です。きのこは椎茸がいいと思うんですがセシウムが気になるので、今回はたまたま冷蔵庫にあった北海道産のエリンギを使いました。風味は薄くなりますが、エピソード的にはしょっぱい話です(ドヤァ)。




これを適当に甘しょっぱく煮ます。



煮てる間にゆで卵を割り、白身はみじん切りに、黄身は目の細かい網で裏漉します。別に裏漉ししなくても美味しいけど見た目にきれいでごちそう感が増すので、面倒じゃなければちゃんと裏漉しましょう。


煮た野菜、ひき肉、卵の白身を混ぜて、ケーキ用の型などに入れます。型がなかったら、アルミホイルとかをそれっぽく四角く整形したものでもいいです。型に材料を詰めたら、上から裏漉しした卵の黄身をふりかける。あとは鍋に水を張り、上げ底などを使って15分〜20分くらい蒸すだけです。結露対策として、蒸すときはアルミホイルとかで蓋をしましょう。


こういった手順を、卵の裏漉しをしてる間に入念に考えます。そういうことに集中してる間に、気が付くとなにやら焦げ臭い匂いが部屋に充満してることに、あなたは気がつくでしょう。そう、鍋で煮ていた人参やきのこをすっかり忘れていたのです。いえーい、失敗イェーイ!



あぁ……。





あぁ…………。

今日の料理

自分の母はわりかし料理上手だった、というか父親がいろんなものを食いたがった。父は夢で見た料理を食べたいとか言い出し、こんな感じのものだったと母に伝えて作らせたりしていた。こういう子供時代の細かいエピソードを大人になって思い出してみると、自分の父親は狂っているのじゃないかと思えるが、本題はそこではない。父が夢の中で食べたいと思った料理を母親が作り、僕がそれを子供の頃から食べて育ったというところがポイントだ。

父は夢で見た料理を「豚肉を、なんか赤いものと煮てた」と説明したらしい。母は豚肉と煮そうな赤いものをいろいろと考え、それはのちに「豚肉のみそ煮」と呼ばれるメニューになった。

材料:豚バラ肉のブロック、にんじん、こんにゃく、味噌、みりん、砂糖、醤油など
作り方:豚を1センチ角とかに切って、甘しょっぱく煮る

子供のころしょっちゅう食べていた気がするのだが、たぶん父の中で盛り上がった時期によく食べただけで、そんなに定番化したものでもないのだろう。自分の中でも「父が夢で見た料理」という情報だけが印象的で、味はさっぱり覚えていない。ただ、母に聞くと「豚肉のみそ煮」はいまでも作っているという。しかし父は固いものが食べにくくなってきたので、最近はスペアリブなどを使っているとのことだ。

なんだか最初は「思い出のあやふやさ」と「親の老化」そして「子供に引き継がれていく味」みたいな要素から、感動のエピソードみたいな日記にしたいと思っていたのだが、スペアリブって材料が出てきた瞬間「意外といいもん食ってんなー」みたいな印象しかなくなったのでチョキン、パチン、ストン。話はここでおーしまい。

あたしこのパイ嫌いなのよね

落ち着こう、こんなときはゆっくり数を数えればいい。小さな子が階段を「いち、に、いち、に」と上がるみたいに、簡単なことをひとつずつ積み重ねればあっという間。いち、に、いち、に。さあ用意しておいた、あの言葉を言おう。なるべくクールに決めるのよ。

いち「あたし」
に「このパイ」
さん「嫌いなのよね」

はい、よくできました。

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自分の目の前に立つ少女は、とつぜんの言葉に呆然としている。嵐の中わざわざ届けた、しかもおばあちゃんが孫のために頑張って作ったパイに向かって、この孫は「嫌い」と言い放ったのだ。心が傷まないといえば嘘になるけど、こっちにも事情というものがあるのだ。彼女はさらさらと伝票にサインをして、お礼の言葉も言わずぶっきらぼうに玄関のドアを閉めた。

田舎から都会の学校に引っ越してきた彼女は、大人びたクラスメイトたちにすっかり魅了されていた。それは同級生の首筋から妙に良い匂いがすることや、男子と女子がケンカもせず仲良く遊んでいること、筆箱に貼ったシールを自慢しあうのではなく洋服をどこで買ったか聞き合うような、言ってみれば子供っぽくないだけで特別なことではない、年ごろの男女にとって普通のことだったのだが、彼女の目にはたまらなく大人っぽく映った。そして自分だけが子供のように感じられて恥ずかしかった。

優しい学友たちは彼女のことを田舎ものとバカにすることなく、対等に扱った。彼女はそのことを嬉しく思い、自分も彼らのように大人になろうと決意した。そうして背伸びをした結果、1カ月の間に彼女は数限りない恥をかき、そのことで学友たちは彼女のことをよく理解することができたのだが、当の本人は生きた心地がしない。もう失敗はできない。そんな崖っぷちの心境で、名誉挽回と臨んだのが今日の誕生日パーティだったのだ。

クラスメイトに招待状を出した、気になるクラブの先輩にも勇気を出して声をかけた。ドレスも新調した。本当は真っ赤なドレスが着たかったのだが、まだ早いと買ってもらえず子供っぽいピンクになってしまったことだけが心残りだ。きっとほかの女子は自分で選んだ好みのドレスを着てくるのだろう。まだ親に着るものを選んでもらってるなんて、笑われないだろうか。そんなことを考えていると、祖母から電話があった。ごちそうを送ったという。中身はなにか聞かなくてもわかる、かぼちゃとニシンを使ったパイは祖母の得意技だ。冗談じゃないっ、あんな田舎くさい味付けのものっ。

-

バタンっ。強く閉めたドアの音が部屋に響き渡ると、さっきまで賑わっていたパーティが嘘のように静まり返っていた。彼女は「しまった」と思った。宅配屋にきつく言うことでクールな都会の女を演じたつもりだったが、そもそもパイを受け取るべきではなかった。かぼちゃとニシンのパイから漂う田舎くさい香りが、きっと部屋の中に充満してるのだ。田舎育ちのわたしにはわからないが、生まれたころからバラの香水を振りかけられて育ったようなみんなは、馬小屋に放り込まれたような気分に違いない。クソ、馬のクソみたいなパイ!と彼女は、自分の手に持った包みに憎しみのオーラを放つ。

「ダメだよ、あんなこと言っちゃ!」

そう言ったのは、クラスメイトの中でもおとなっぽくオシャレな雰囲気を放っていると密かに思っていた憧れの女子だった。なにを怒られたのかよくわからず彼女はポカンとしてしまう。

「雨の中パイを届けてくれたんでしょう、ありがとうを言わなきゃ」
「そのパイおばあちゃんが作ってくれたんでしょ?素晴らしいわ」

友人たちはすでにこの1カ月で、彼女のことなどわかりきってしまっていた。どんなに彼女が都会の洗練されたレディを気取ってみせても、100近い失敗を見られていては無理もない。だからさっきの宅配屋に向けた言葉が、本当は彼女にぜんぜん似合っていないことなどお見通しなのだ。みえみえの嘘に付き合っていた友人たちは、やっと肩の力が抜けたというふうに笑いあい、彼女に詰め寄る。

「ムリしないでいいのよ。あなた、だって、ちょっとオッチョコチョイすぎるのだもの」
「ニシンのパイすっげえうまそうじゃん、一切れくれよ」
「さっきの子、パン屋の二階に住んでる子だろ。今度あやまりな」

彼女に語りかける同級生たちは、こころなしかもうあまり大人っぽく見えない。もしかすると、彼女の期待にこたえようと無理をしていたのかもしれない。少女はわけがわからず、しかし一ヶ月の間張り続けた気が抜けたのか、みんなの前にもかかわらず思わず泣き出してしまった。

パーティは続き、みんなが思い思いに話に花を咲かせたりカードをしたり、あるものは悪ぶってたばこを吸ったりするなか、主役の彼女は壁にひとりよりかかりため息をつく。もう目に涙はないが、落胆の色は隠せない。どうして私はこうなのだろう、もっと大人になるにはどうしたらいいのだろう。

お皿に乗ったパイを一口つまみ、ごくんと飲みこむ。

「あたし、このパイ嫌いなのよね。」

その味はどこまでも田舎臭く、だけれども今日のために用意したどのごちそうよりも優しい味が、、、

ごらん、その中をいくつも魚が泳いでいる

2月15日(土)
朝:フレンチトーストとスープ(+パン屋でホットサンドとカフェオレをつまみぐい)
昼:うどん
夜:餃子、サラダ、スープ

目が覚めてすぐ「朝ごはんはフレンチトーストだ」と思い、妻と子を起こさないよう布団を出て、こっそり卵と砂糖と牛乳を混ぜたもの(A)を作る。僕は人をビックリさせるのが好きなのだけど、準備期間が長いと秘密にしておけず「あのね、あのね」と自分からバラしてしまう(可愛すぎる)ので、早起きしておいしい朝ごはんを作ってみせるくらいがちょうどいい。ふふふ、サプライズ……と思いながら、食パンを(A)にグイグイ押し付ける。「つけ汁」とか「タレ」とか、あんまし可愛い言葉が出てこなかったからレシピ本っぽく(A)とか使ってみたけど、変なの。もっと美味しそうな呼び方があればいいのに。
朝ごはんを食べたら雪遊びしようと散歩に出かけるが、なにしろ足元が悪いので少し歩いただけでとにかく疲れる。イートインできるパン屋が近所にあるので、そこで一休み。カフェオレだけ飲むつもりだったが、寒い日だけのホットサンドというのを見つけてしまい、あわあわ、これも、これもいいですか。と注文。限定メニューは食べ逃さない。
アパートの一室をお店にしている羽根木餃子というのを見つけ、晩御飯に作ってみる。たしかに肉はゴロゴロしてるしハネもパリパリにできる。もっといっぱい食べたいから、今度は自分で作ろうと思う。
夜は渋谷に出かけてハチ公の雪像を見たりもした。ほとんど溶けてた。

2月16日(日)
朝:ピザトースト
昼:おべんとう(おにぎり、芽キャベツのバター炒め、ブロッコリーのチーズ焼き、玉子焼き)
夜:焼き魚、大根の煮物、湯豆腐
晩酌:ビール(ヒューガルデンホワイト)、ソーセージ(ペッパーとオリーブの2種類)

天気はいいけど雪でぬかるんだ地面にこりたので、池袋のサンシャイン水族館に行く。年間パスポートを作ってあるので、最近は遊び場に困るとここに来ることが多い。この水族館はiPhoneアプリの「ikesu」に対応していて、QRコードを読み込むと水槽の魚をゲットして図鑑が作れるようになっている。

タカアシガニタカアシガニ!洞窟みたいな水槽が一番きれいだった。

電車の中で妻のiPhoneにアプリをインストールしておいたので「魚ゲットして、魚ゲットして!」と頼んだら「アプリの魚より本物の魚を見て遊びたい」と呆れられたので、自分のiPhoneにアプリを入れて魚を捕まえることにする。魚ゲット!ペンギンゲット!
夜いつもは22時くらいまで布団に入ろうとしない息子も、お昼寝しなかったからか20時半には眠りにつく。妻とビールを半分こして飲み、ソーセージなどをつまむ。

僕らはお酒に弱いので、少し飲んだだけで酔っ払ってしまう。だからビール1つ飲むだけでも少し特別なことをするような気持ちになり、前の日からワクワクしながら用意をしたりする。当たり前のように毎晩ビールを飲むような大人にも憧れるが、こうやって少しのことでワチャワチャするのも楽しい。

お酒が飲めないというのは、なんだかずっと子供でいるみたいだ。

きれいな言葉で伝えたい

読んでいる本や見ているアニメのこと、人と交わした面白い話や、作った料理の出来栄えとレシピについて、それから初めて出かけた町の景色、最近は夜にお酒を飲むこと、子供と遊ぶ時間とひとりの時間の違い、そういった日常の瑣末な出来事を革新的でほかにはない素晴らしい暮らしのように書けたら。つまり僕は、どうしたら君に素敵な人間だと思ってもらえるか。そればっかり考えているんだ。