ディーンアンドデルーカのホットアップルサイダーが美味しかったんだ
みんなからSNSをやめて日記を書けと言われるので、短いものでもいいからやってみるかと思い、今日からちょっとメモ程度に始めてみることにした。
金曜から妻も息子もお腹を壊していて、自分だけ元気という週末。固形物を食べるとよくないからと2人は朝ごはんをウィダーインゼリーで済ませていて、息子は「足りないよー」と言って、殻になった容器から残りを絞り出すようにして飲んでいた。自分は元気なので別に普通のごはんを食べてもかまわないのだが、何か気が引けてしまい、台所でこっそりチキンラーメンを食べていたのだが、そんな匂いの強いものを食べてバレないわけがなく「チキンラーメンを食べているね」とリビングから妻に指摘される。気がついていなかった息子も妻の声を聞いて「チキンラーメン?」と身を乗り出す。気を使って隠れていたのに、これじゃあ僕が、妻子がお腹を空かせているのに自分だけいいものを食べようとする意地汚いお父さんみたいじゃないか。そうなんだが。
重たいものを食べないようにしていた成果か、夕方ごろには息子のお腹は調子を取り戻したようなので、一緒に外に出かける。妻は留守番。何か温かいものを飲みたいと思い、ディーンアンドデルーカでホットアップルサイダーをテイクアウトで注文する。ホットでサイダーとはどういうものなのだろうと思っていたら別に炭酸が入っているわけでなく、シナモンやスパイスで味付けをされたりんごジュースが出てきて、ちょっと驚く。
電車に揺られながら、じんわり温かいホットアップルサイダーを口につけて、ああこの感覚は冬だなと思った。12月も中旬になり、すっかりコートも着慣れて冬の装いになっているのに、イルミネーションを見ても仕事が年末進行で忙しくなっても、なんとなくまだ心は夏が終わって少し経ったな、くらいに感じていた。その感じが、一杯のホットアップルサイダーで一気に冬になった。
クリスマスが好きなのだけど、たぶんそれはクリスマスにあまり現実味がないからで、もみの木とかプレゼントとかサンタクロースとか、生活の中に夢が入り込んでくる感じがいい。仕事があまりに嫌なので、今年は会社の自分の席の横のカーテンにオーナメントやアイシングクッキーを吊るして浮かれた感じにして、僕の席だけアホみたいになってるのだけど、そういう飾り付けをして「もっとカーテンに吊るすものを増やしたい」みたいな目的ができると、会社に行くのが仕事をするためだけじゃなくなり、雑貨屋でオーナメントを買っているときの楽しさが自分のデスクと地続きになる。ずっと遊んでるみたいな気持ちでいたい。
普段は飲まないホットアップルサイダーなんていうものを飲むと、じんわり温かい液体と一緒に、そういう生活とか現実とは離れた、冬の非現実的な部分みたいなものが一緒に入ってくる。素敵で優雅な愛すべき冬の到来だ。クリスマスに食べる鳥の丸焼きを、近所の鳥肉屋で予約して帰宅する。遅くなったが、冬を楽しく過ごすための準備を始めなくてはいけない。
「アリスと蔵六」アニメ化記念今井哲也インタビュー
原稿だって書けるよ。コミックナタリーで「アリスと蔵六」テレビアニメ化記念のインタビュー記事を書きました。
- 作者: 今井哲也
- 出版社/メーカー: 徳間書店(リュウ・コミックス)
- 発売日: 2014/04/11
- メディア: Kindle版
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http://natalie.mu/comic/pp/alicetozouroku01
作者の今井哲也さんとはTwitterで相互フォローしているので、会ったことはないけれどなんとなく認識はされているだろうなあと思っていたのだけど、名刺を渡したら「東京のことならなんでも俺に訊いて、の人ですよね」と言われてしまう。東京のことなら、なんでも、俺に訊いて! クライアントに頭がおかしいと思われたかもしれない。
インタビュー中に「(ろくろを回すポーズで)」という記述があるのですが、これは僕が書いたのじゃなく原稿を送ったら付け加えられて戻ってきたものだということは、記録しておきたい。今井さんご本人のクリエイターとしてのこだわり、つまり顕れるイデア。
なにはともあれアニメ「アリスと蔵六」はすばらしい仕上がりになると思うので、みなさん是非。
僕と君の大切な話
美人なあまり近寄りがたいと評判の相沢さんと、普段は女子と口喧嘩ばかりしている東くん、接点などなさそうな2人が学校の中庭で仲睦まじく談笑をしている。カメラは2人を見下ろすように上へとあがっていき、校舎の窓から2人を覗く東くんのクラスメイトを映し出す。スキャンダルを目撃したように人々はざわつく。呪詛の念を唱える者、わざとらしく手を望遠鏡のようにして遠くの2人に好奇の視線を送る者もいる。
喧騒に包まれる校内。その中心にいるはずの2人にだけ、まだこの騒ぎは聞こえてこない。すぐにも友たちは彼らを捕まえ、ひやかしたり、怒りをぶつけたり、まだわけのわかっていない2人を巻き込んで次のドラマを始めることだろう。けれども何かが始まった、この瞬間に限り東と相沢には平和な時間が流れている。
校舎の3階・窓の中に広がるパニックと、少しだけ離れた場所に流れる穏やかな時間。ひゅうっと風が、その間を吹き抜けていく。
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この「僕と君の大切な話」は、女性の考えは理解できないと思っている朴念仁の東くんと、その東くんに片思いをしている女の子・相沢さんの物語。恋愛ものなのだけど、一般的なラブコメと一線を画すのは、最初の時点でヒロインが男の子にすでに告白をしてしまっているところ。恋人同士にはなれなかったけれど、告白をきっかけに話をするようになった2人が「女はこうだ」「男だってこうじゃない」と、男女の相容れない部分や他愛のないことを語り合い、少しずつ互いのことを理解していく会話劇になっている。
1巻の時点では2人の仲があまり進展せず、てっきり恋愛要素はオマケで“男女あるある”を披露する少女マンガ版「絶望先生」なのかと思っていた。嫌いじゃないけど第一印象が小粒で、ストーリーマンガのように先の展開が気になる推進力が得られず、ネタの消費に終始するようなら買い続けるかは悩みどころだった。なのに第2巻を手に取ったのはなぜかというと、1巻の終わり方が世界観の広がりを感じさせたから。
駅のベンチでしか出会うことのなかった2人が、ふとしたことから学校でも話をするきっかけを掴むところで1巻は終わる。この移動は場所だけでなく、もちろん2人の距離が縮まったことも意味する。ここで、このマンガはもしかしてちゃんと恋愛を描く気があるのかもしれないと期待を持ったのが理由の1つ。
もう1つは校内で2人が会話をしたことで、学校中の人達が東くんと相沢さんの関係に気がつくシーンが挿入されたこと。学園ドラマの始まりを感じたし、なにより中庭で話をしている2人を校舎の窓から見下ろす描写が抜群によかったのだ……と、ここまで書いて1巻を見返したら、頭の中と実際の描かれ方がぜんぜん違った。「このシーンいいな」と思うあまり、より自分の好きな風に頭の中で想像を膨らましすぎていた。日記冒頭の描写が、僕の頭の中で再生されていた1巻ラストの景色だ。
ちなみに2巻では大きく話が動き、1巻で見せた予感を裏切らない展開になっていました。3巻への引きも続きが読みたくなる感じで、単行本の区切りを意識した編集は完璧。これは担当・しーげるさん(https://twitter.com/henshu_shigel)の手腕か。
おばけ道
- 作者: 小野寺浩二,石黒正数
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2017/02/14
- メディア: コミック
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このマンガを出してる出版社・少年画報社は外壁がレンガ造りで、いかにも歴史を感じさせるビル。「ソレミテ」1巻にも描かれていたけれど、夜中に編集部に残っていると勝手にガラス戸が開くという心霊現象が起こるらしく。何度か打ち合わせでお邪魔したことがあるのだけれど、件のガラス戸は結構な重みがあって自然と開いたりするようなものではなかったと記憶しています。あそこで働いている人達は、マンガを読んでなんとも思っていないのだろうか。
「それでも町は廻っている」
- 作者: 石黒正数
- 出版社/メーカー: 少年画報社
- 発売日: 2017/02/14
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「それ町」は時系列がシャッフルされていて、前の話と次の話で季節が変わっていたり、年月が飛んでいたりするから、最終巻に収録されている話よりあとのことも昔の巻に出てきたりしているのかもしれない。
その、いっぱいある中からつまんできたものを見せられる感じが、まだまだ歩鳥のお話は終わったわけじゃなく、僕らが見ていないところで「それでも町は廻っている」んだろうなという感じが、嬉しいような、自分ひとりが引っ越しをしてしまいもう会えなくなってしまった友達のことをいつまでも思っているような、ずっと作品が自分に寄り添っている気分にさせられる。
真造圭伍さんが「森山中教習所」のあとがきで「もう会えないけど、ずっと友達の人もいる。そういうことを伝えたかった」というようなことを書いていたのを少し思い出す。
- 作者: 真造圭伍
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/08/30
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ヲタクに恋は難しい
マンガ好きの女の子ということで、モデルの外川礼子さんを取材させてもらったことがある。最近読んでるマンガを尋ねたら、ちょうど彼女が持ってきていた「ヲタクに恋は難しい」をオススメされたのが去年の5月のころ。タイトルは知っていたのだけども、こういう読まなくとも内容が把握できるようなものって後回しになりがちで、そのときはあんまり作品について踏み込んだ話はできなかった。
最近になってようやく読む機会があったのだけれども、いわゆる「あるあるネタ」のオタクバージョンがいっぱい詰め込まれていて、その「あるある感」を説明しなくてもわかってくれる相手と一緒にいるのは楽しいよねっていうマンガだった。2ちゃんねる語や、逆CPとかリバとかの腐女子知識を日常会話で多様したり、友達の家に泊まりこんでマリオカートをしたり、オタク同士だから取れる無遠慮なコミュニケーションが登場人物の仲良し感を演出している。また細かい用語の説明とかはなく、登場人物の会話についていける読者もまたオタク。この人達と自分は仲間なんだという連帯感を、読みながら覚えた。
オタクサークルの青春を描いた「げんしけん」とか、学校内の奇人変人が集まる部活・光画部の日常を見せる「究極超人あ〜る」とか、ラブコメだったりギャグだったり物語の軸になっている部分は違うけど“はぐれ者の楽しさ”みたいなものを描いた作品という意味で、これらのタイトルと「ヲタクに恋は難しい」は同じタイプの作品なんじゃないかなと僕は思っている。ツーカーで話が通じる仲というのは、同じレベルで話をできない外側の人々から見ると実はとっても閉じた存在になる。僕はオタクで、学生のとき教室の空気になじめなかったしイジメに近いような体験もした。けれどオタクの友達と一緒にいるときは楽しく遊んでいたし、オタクで集まっているということに安心感があった。その状態から僕らが持つ実際的な気持ち悪さや暗い感情を排除し、スペシャル感だけを増幅していったものが「ヲタクに恋は難しい」だと言えよう。
ただスペシャル感を増幅して気持ち悪い部分が排除されているとはいえ「ヲタクに恋は難しい」を読んで「#仲間 #最高かよ」みたいな気持ちになれる人間は、やっぱり根がオタクな人だとは思う。あんなに美人の外川礼子さんが、このマンガを読んでいる。なんだか夢のあることだと信じてます。