ぴーちくぱーちく

うるさーーーい!

ズルをして得をすることよりも、自分がイヤなやつになってしまうことのほうが恐ろしい

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富安陽子(著)/大庭賢哉 (イラスト)

「樹のことばと石の封印」

風のことばを聞きとる「風の耳」を持つ長女ユイ、過去や未来のできごとを視る「時の目」を持つ弟・タクミ、生き物の言葉を伝える「魂よせの口」を持つ妹・モエ、人間のパパと狐のママが結婚して生まれた、不思議な能力を持つ信田家の子供たちを描くシノダ!シリーズ。2冊目「樹のことばと石の封印」では、次元を越えて不思議な森に迷い込んだ3人が村のお館様と協力し、人間を石に変えてしまう恐ろしい怪物・オロチと対決!

 

ユイたちは、オロチから逃げるため洞窟を走っている。ここは自分が食い止めると、お館様はユイたちを逃しオロチを迎え撃つ準備をした。だけれど、見たものを石化してしまう恐ろしい目を持っているオロチが相手では、勝算はないだろう。お館様はきっと負け、石になってしまう。追いかけてくるオロチから少しでも遠くへ行こうと焦る、ユイの足が止まる。いまここで振り返らず、走って逃げれば自分たちは助かるのかもしれない。けれども、恐怖を他人に押し付けた、みっともない自分から逃げることはできなくなるだろう。「おねえちゃん!」と弟のタクミが叫び、引き止める。けれどもユイは止まらなかった。オロチに石にされるよりも、もっと恐ろしいことを彼女は知っていたからだ。

 

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なんでそんな話になったのかは忘れたが、バーで友人とお酒を飲んでいるときに「浮気をしたいと思うか」というような話になった。僕は結婚しているけれども、妻以外の女の子のことも魅力的に感じているし、そういう相手とセックスをしたいという気持ちを持っていないわけではない。気を抜いたら浮気をしてしまうんじゃないかという恐怖を持って生活している。つまり「浮気をしたい」という気持ちを理性で制して「浮気をしない」でいるわけだ。

 

じゃあなぜ「浮気をしない」のか。浮気をするという行為は、バレなければ嘘をついてもいいというズルさがあり、自分が得をするために約束をやぶったり不正を働く人間になるということと繋がっている。そういう、周りにいたら嫌だなと思う、信用ならないくだらないやつに自分がなってしまい、一生「浮気をする人間」として生きていくことを考えると、ちょっと耐えられない。だから僕は浮気をしないです、という話をした。そうしたら目の前にいた女の子たちは「え、ちょっと気持ち悪いんだけど」とひいた感じで、グラスに入ったお酒を口に入れた。

 

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 「樹のことばと石の封印」で長女のユイは、自分が助かるために他人を犠牲にすることのほうが、危険な目に遭うことよりももっと恐ろしいことだと考え、勇気を振り絞ってオロチに立ち向かう。そのシーンを読みながら僕は、彼女に強く共感した。

 

オロチなんて恐ろしいやつがいなくても、日常のちょっとした場面で、ちょっとくらいのズルならいいさ、そんな風な気持ちを持ってしまうことはよくある。ズルをして得をすることよりも、自分がイヤなやつになってしまうことのほうが恐ろしい。そのことを忘れずにいたい。