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うるさーーーい!

売野機子「しあわせになりたい」


「クリスマスプレゼントなんていらない」「売野機子のハート・ビート」が連続刊行された売野機子さん。そういえば短編集って全部読んでいたっけ?と思い、書店でざっと見たところ1冊だけタイトルに覚えのない「しあわせになりたい」を見つけたので購入。

表題作「しあわせになりたい」の中で、星野さんという女の子は「楽しいことが毎日増えて しあわせになりそうでこわいの」と泣く。傷ついた心が立ち直るとき、元気になってしまったら、悲しいと思った気持ちを裏切るような気がする。傷つくほど大切にしていたことを忘れてしまうんじゃないかと、しあわせに怯えてしまう。

星野さんが好きだった男の子・朝生は、スランプ気味のミュージシャン。不幸せだったときは曲が書けたが、その曲が世間に認められ彼は傷つくことがなくなってしまう。「肉体が満足してるとマインドが欠けるんだ」と、彼もまたしあわせになってしまうことに抵抗をする。しあわせになりたくないわけじゃない。むしろ「しあわせになりたい」と、みんなが思っている。

関係ないけど、なくないけど。うちの妻が昔「人はやりたくないことはやっちゃいけない。気が狂うから」と言っていた。どうしてそんな話をされたのか、たぶん仕事がつらいとかそういうことを僕が言ったからだと思うのだけど。

「楽しいことが毎日増えて しあわせになりそうでこわいの」と泣く星野さんを見ながら僕は、じゃあこの娘はなにが「やりたくない」のだろう……とぼんやり考えた。僕もしあわせになりたい。