ぴーちくぱーちく

うるさーーーい!

せっかく生まれてきたのに君と同じ楽しみができない

アンテナをビンビンに張り巡らせて面白いことを察知し続けて、なにひとつ取りこぼすことなくキャッチしたい。自分が面白いと思わないことすらも興味がある。自分が面白くないと感じるのと同じぐらいに、人が面白いと感じていることは事実だ。そこにはロジックがあり「趣味じゃない」とか言って切り捨ててさえしまわなければ、道は続いている。ものには面白がりかたがあり、ルールを知らないと楽しめない遊びが多い。例えばTVのバラエティ番組は、芸能人のモノマネとか、ゴシップをネタにしたいじり芸とか、そういう内輪ネタが溢れている。学校でクラスメイト同士が先生の悪口を言ったり、誰と誰が付き合ってるとかを冷やかしているのと同じだ。そのクラスに属していないと通じない類の笑いである。他人からしたらクソ面白くない話だが、サークルの大きさやディレクトリが違うだけで、すべての笑いは同じ構造にある。理解することから笑いは始まる。趣味だとか、センスだとか、方向性が問題になるのは理解したあとであり、理解する前から否定するのは脳死である。食べ物の好き嫌いが多いと、人生を損しているような気分になるだろう。嫌いなものが少なく、なんでも美味しく食べられたらどんなに食事が楽しいだろう。

小説を読んで作者の訴えたいテーマを読み解きたい。
映画を見て一番美しいと思うシーンを一生覚えていたい。
音楽を聞いてメロディと歌詞のハーモニーを感じたい。
連載マンガを読んで伏線をきちんと見つけ今後の展開を予想したい。
アニメを見て作画や演出を語りたい。
カッコいい服を着て髪型を合わせたり上下のバランスを考えたい。
雑誌を見てエディトリアルデザインを美しいと思いたい。
スポーツ選手のプレイを見て感動したい。
旅行に出かけてもういちど来たいと思える景色を見たい。
ビールを飲んで産地や銘柄から味の違いを比べたい。

僕が面白いと思うことを、君にも面白いと思ってもらいたい。

次の自己紹介

家に帰ってくると妙に雰囲気が暗い。もう夕暮れ時なのに電気が点いていないし、なんていうか、誰もいないときより余計に響く居心地の悪い静けさが玄関から廊下にかけて充満していた。ごくり、とつばを飲み込んで私は「おかあさん?」と暗がりに問いかける。返事はない。一歩、二歩、普段だったら長さなんて気にしたこともない廊下を慎重に歩いて台所のドアを開ける。キッチンテーブルを囲むように、父と母、それに弟が座っているのが見えて私はホッとした。しかし、やはり様子がおかしい。妙にシリアスというか、みんな押し黙って下を向いているのだ。そして変だなと思った、弟は東京に就職して普段は実家にはいない。最初は、帰省を私が知らされていなかっただけだと思った。しかし、よく見るとそれは弟ではなかった。どうして私は"これ"を弟だなどと思ったのだろう。父、母とテーブルを囲んでいる人間といえば弟だと脳が決めつけてしまっていたのだ。これは、弟なんかじゃない!それどころか、これは、ああ!アアァァアァアアァァアアァァアァァァアァァzァァ………

それが俺です、こんにちは。

俺の話を聞くのはあいつだけ

俺の話を聞くのはあいつだけ、つまんねえかもしれねえが、助かる

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もう夜中だというのに、この公園では派手な騒音が鳴り響いている。あちらこちらから奇声とかするし、酒飲んで酔っ払ってるやつの上をスケートボードが飛び越えたりして、それ失敗したら死んじゃうやつです?っていうようなのも、みんな拍手して笑ってんの。俺はうずくまって「ありえねーし」を連呼。これはセンパイと付き合い始めてからの口癖だ。どちらかっていうと俺はすぐ「ありえねー」とかいうやつこそ「ありえねー」って感じだったのだが、この1ヶ月でスッカリ改心した。この状況「ありえねー」だろ。

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「ヒップホップ好きなんだ。君、進学クラス?」

はじめて声をかけてきたのはセンパイのほうからだった。俺はそのとき、地元でしか活動してないユニットのTシャツを学校に着てきていて、うちの進学クラスは真面目を絵に描いたような坊っちゃんばっかだから目についたのだろう。

「あ、でもニワカか」
「そのTシャツ着て、そのキャップかぶるやつはファンにいないよ。つーか、学校でキャップかぶんなし。制服、あんま崩すとダッセーよ」

ちょっと残念そうな顔して、センパイはそう言った。俺はわりと音楽にはうるさいほうで、このユニットはたしかに最近知ったばっかりだったが、プレスで発売されてないCD-Rなんかも通販で買って聴きこんでいる。ニワカ扱いにはむかついてしまった。あとから知ったことによると、Tシャツとキャップのラッパーは敵対関係(そんなの日本であんのか、まじかよ)で、ファン同士もいがみ合っていて、アイテムを着たやつを見つけてはリンチにしあったりしているらしい。でも、そんな事情知んねーし。ディスクユニオンでレコメンされてたから聞いただけだし。

「超カッコいいもん、どっちも好きでわりーかよ!」

なんつっちゃって。今でもやっぱりそう思うけど、それ以来Tシャツとキャップは一緒にかぶらなくなった。でも、なんでだろ。あのときのセンパイすっげー笑ってたな。

あのとき声をかけられてから、俺はセンパイに懐かれてしまった。授業をサボタージュして釣り堀に付き合わされたり、駄菓子屋の店番させられたり。学校帰りにはライブによく連れて行ってもらったが、モッシュで客が骨折するようなバンドとか、かと思えば宇宙の神秘を覗くような音響とか。センパイと見るものは、すべてが新鮮で面白かった。どこに行ってもセンパイには仲間がいて、一度盛り上がっちゃうと俺がいることなんか忘れたみたいになっちゃう。で、いっつも途中で俺のとこきて聞くんだ。

「どうだ、つまんねえだろ?」

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どっかで誰かが花火を始めたのだろう、いつのまにか辺りはモクモクと煙が充満している。ロケット花火の打ち合いをするような音が響き渡り、俺はセンパイにもらった缶チューハイを一口飲む。

「どうだ、つまんねえだろ?」

センパイはいつもの調子で言った。センパイといるとメチャクチャなことばっかで、面白いとかつまんないとか考える余裕がなくて、いっつも適当に笑ってごまかしてた。でも今日は、なんだか考えなくちゃいけない気がする。だけど爆竹の破裂音と煙がすごくて、ぜんぜん頭が働かない。

ここにいるみんな、本当は俺みたいに、なにが起きてるか一つもわかっていないのかもしれない。ずっと馬鹿笑いしてるのは、笑っているしかないからなのかもしれない。

「こういうのって、なんていうんだろ。つまんないよりは楽しいんだけど。さびしい、のかな」

俺がそう言うとセンパイは「なんだよソレ」なんて言って、そのあとはハハっと小さく笑った。俺はスケートとかしたことないから、滑るのとか超怖かったけど、センパイにやれやれって言われて一度だけ板に乗っかった。明らかに上級者向けっぽいランプの上に立たされて、背中をドンって押されて真っ逆さま。

俺、滑ってる、つーか転ぶし、うわ変な感じっ。

「転ぶな、そのまま飛べ!オーリーだよ!」

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つま先が離れると、板は空中でグルっと一回転してすっ飛んでいった。スピードに置いていかれた後輩は地面に打ち付けられて、そんで、なんかしんないけど、ずっと笑ってた。

真夜中の公園、爆竹の破裂音とすごい煙、だれかのラジカセから流れるストラグル・フォー・プライド。缶チューハイを一口飲み込んで、さっきの言葉を思い出す。ためしに自分でも言ってみる。

「こういうのって、なんていうんだろうな。つまんないよりは楽しいんだけど。さびしい、のかな」

ハハっと笑って、缶チューハイの残りを飲み干して俺は煙の中に入っていく。

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俺の話を聞くのはあいつだけ、つまんねえかもしれねえが、助かる。

きょうのご馳走「肉蒸し」

僕の母親は料理が上手だった。というのも母の実家は旅館を営んでいた時期があり、その味をきちんと継承した料理を作ってくれたので、普段の食事から少し手の込んだものなんかが出てきがちだったのだ。結婚してから「あれが食べたいなー」なんて実家で食べていたものをいうと、その料理をそもそも妻が知らなかったりして、どうやら自分の家だけで作られていたオリジナルメニューであることが判明したりもする。そういうものを忘れたくなくて、最近は母親から作り方を教わり自分で作ってみることが多い。

旅館の料理なので日常的に作るには面倒くさいが、めでたい日にぴったりのメニューなんかも多かったりする。今日は妻の誕生日なので晩御飯に「肉蒸し」を作ろうと思う。せっかくだから、その作り方を紹介します。

<肉蒸し>
材料:豚ひき肉(300グラムくらい)、人参、きのこ、ゆで卵、生姜
調味料:醤油、みりん、酒、砂糖、塩



人参、きのこ、生姜をみじん切りにします。フードプロセッサーに突っ込むと楽です。きのこは椎茸がいいと思うんですがセシウムが気になるので、今回はたまたま冷蔵庫にあった北海道産のエリンギを使いました。風味は薄くなりますが、エピソード的にはしょっぱい話です(ドヤァ)。




これを適当に甘しょっぱく煮ます。



煮てる間にゆで卵を割り、白身はみじん切りに、黄身は目の細かい網で裏漉します。別に裏漉ししなくても美味しいけど見た目にきれいでごちそう感が増すので、面倒じゃなければちゃんと裏漉しましょう。


煮た野菜、ひき肉、卵の白身を混ぜて、ケーキ用の型などに入れます。型がなかったら、アルミホイルとかをそれっぽく四角く整形したものでもいいです。型に材料を詰めたら、上から裏漉しした卵の黄身をふりかける。あとは鍋に水を張り、上げ底などを使って15分〜20分くらい蒸すだけです。結露対策として、蒸すときはアルミホイルとかで蓋をしましょう。


こういった手順を、卵の裏漉しをしてる間に入念に考えます。そういうことに集中してる間に、気が付くとなにやら焦げ臭い匂いが部屋に充満してることに、あなたは気がつくでしょう。そう、鍋で煮ていた人参やきのこをすっかり忘れていたのです。いえーい、失敗イェーイ!



あぁ……。





あぁ…………。

今日の料理

自分の母はわりかし料理上手だった、というか父親がいろんなものを食いたがった。父は夢で見た料理を食べたいとか言い出し、こんな感じのものだったと母に伝えて作らせたりしていた。こういう子供時代の細かいエピソードを大人になって思い出してみると、自分の父親は狂っているのじゃないかと思えるが、本題はそこではない。父が夢の中で食べたいと思った料理を母親が作り、僕がそれを子供の頃から食べて育ったというところがポイントだ。

父は夢で見た料理を「豚肉を、なんか赤いものと煮てた」と説明したらしい。母は豚肉と煮そうな赤いものをいろいろと考え、それはのちに「豚肉のみそ煮」と呼ばれるメニューになった。

材料:豚バラ肉のブロック、にんじん、こんにゃく、味噌、みりん、砂糖、醤油など
作り方:豚を1センチ角とかに切って、甘しょっぱく煮る

子供のころしょっちゅう食べていた気がするのだが、たぶん父の中で盛り上がった時期によく食べただけで、そんなに定番化したものでもないのだろう。自分の中でも「父が夢で見た料理」という情報だけが印象的で、味はさっぱり覚えていない。ただ、母に聞くと「豚肉のみそ煮」はいまでも作っているという。しかし父は固いものが食べにくくなってきたので、最近はスペアリブなどを使っているとのことだ。

なんだか最初は「思い出のあやふやさ」と「親の老化」そして「子供に引き継がれていく味」みたいな要素から、感動のエピソードみたいな日記にしたいと思っていたのだが、スペアリブって材料が出てきた瞬間「意外といいもん食ってんなー」みたいな印象しかなくなったのでチョキン、パチン、ストン。話はここでおーしまい。

あたしこのパイ嫌いなのよね

落ち着こう、こんなときはゆっくり数を数えればいい。小さな子が階段を「いち、に、いち、に」と上がるみたいに、簡単なことをひとつずつ積み重ねればあっという間。いち、に、いち、に。さあ用意しておいた、あの言葉を言おう。なるべくクールに決めるのよ。

いち「あたし」
に「このパイ」
さん「嫌いなのよね」

はい、よくできました。

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自分の目の前に立つ少女は、とつぜんの言葉に呆然としている。嵐の中わざわざ届けた、しかもおばあちゃんが孫のために頑張って作ったパイに向かって、この孫は「嫌い」と言い放ったのだ。心が傷まないといえば嘘になるけど、こっちにも事情というものがあるのだ。彼女はさらさらと伝票にサインをして、お礼の言葉も言わずぶっきらぼうに玄関のドアを閉めた。

田舎から都会の学校に引っ越してきた彼女は、大人びたクラスメイトたちにすっかり魅了されていた。それは同級生の首筋から妙に良い匂いがすることや、男子と女子がケンカもせず仲良く遊んでいること、筆箱に貼ったシールを自慢しあうのではなく洋服をどこで買ったか聞き合うような、言ってみれば子供っぽくないだけで特別なことではない、年ごろの男女にとって普通のことだったのだが、彼女の目にはたまらなく大人っぽく映った。そして自分だけが子供のように感じられて恥ずかしかった。

優しい学友たちは彼女のことを田舎ものとバカにすることなく、対等に扱った。彼女はそのことを嬉しく思い、自分も彼らのように大人になろうと決意した。そうして背伸びをした結果、1カ月の間に彼女は数限りない恥をかき、そのことで学友たちは彼女のことをよく理解することができたのだが、当の本人は生きた心地がしない。もう失敗はできない。そんな崖っぷちの心境で、名誉挽回と臨んだのが今日の誕生日パーティだったのだ。

クラスメイトに招待状を出した、気になるクラブの先輩にも勇気を出して声をかけた。ドレスも新調した。本当は真っ赤なドレスが着たかったのだが、まだ早いと買ってもらえず子供っぽいピンクになってしまったことだけが心残りだ。きっとほかの女子は自分で選んだ好みのドレスを着てくるのだろう。まだ親に着るものを選んでもらってるなんて、笑われないだろうか。そんなことを考えていると、祖母から電話があった。ごちそうを送ったという。中身はなにか聞かなくてもわかる、かぼちゃとニシンを使ったパイは祖母の得意技だ。冗談じゃないっ、あんな田舎くさい味付けのものっ。

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バタンっ。強く閉めたドアの音が部屋に響き渡ると、さっきまで賑わっていたパーティが嘘のように静まり返っていた。彼女は「しまった」と思った。宅配屋にきつく言うことでクールな都会の女を演じたつもりだったが、そもそもパイを受け取るべきではなかった。かぼちゃとニシンのパイから漂う田舎くさい香りが、きっと部屋の中に充満してるのだ。田舎育ちのわたしにはわからないが、生まれたころからバラの香水を振りかけられて育ったようなみんなは、馬小屋に放り込まれたような気分に違いない。クソ、馬のクソみたいなパイ!と彼女は、自分の手に持った包みに憎しみのオーラを放つ。

「ダメだよ、あんなこと言っちゃ!」

そう言ったのは、クラスメイトの中でもおとなっぽくオシャレな雰囲気を放っていると密かに思っていた憧れの女子だった。なにを怒られたのかよくわからず彼女はポカンとしてしまう。

「雨の中パイを届けてくれたんでしょう、ありがとうを言わなきゃ」
「そのパイおばあちゃんが作ってくれたんでしょ?素晴らしいわ」

友人たちはすでにこの1カ月で、彼女のことなどわかりきってしまっていた。どんなに彼女が都会の洗練されたレディを気取ってみせても、100近い失敗を見られていては無理もない。だからさっきの宅配屋に向けた言葉が、本当は彼女にぜんぜん似合っていないことなどお見通しなのだ。みえみえの嘘に付き合っていた友人たちは、やっと肩の力が抜けたというふうに笑いあい、彼女に詰め寄る。

「ムリしないでいいのよ。あなた、だって、ちょっとオッチョコチョイすぎるのだもの」
「ニシンのパイすっげえうまそうじゃん、一切れくれよ」
「さっきの子、パン屋の二階に住んでる子だろ。今度あやまりな」

彼女に語りかける同級生たちは、こころなしかもうあまり大人っぽく見えない。もしかすると、彼女の期待にこたえようと無理をしていたのかもしれない。少女はわけがわからず、しかし一ヶ月の間張り続けた気が抜けたのか、みんなの前にもかかわらず思わず泣き出してしまった。

パーティは続き、みんなが思い思いに話に花を咲かせたりカードをしたり、あるものは悪ぶってたばこを吸ったりするなか、主役の彼女は壁にひとりよりかかりため息をつく。もう目に涙はないが、落胆の色は隠せない。どうして私はこうなのだろう、もっと大人になるにはどうしたらいいのだろう。

お皿に乗ったパイを一口つまみ、ごくんと飲みこむ。

「あたし、このパイ嫌いなのよね。」

その味はどこまでも田舎臭く、だけれども今日のために用意したどのごちそうよりも優しい味が、、、